複雑系理論セミナー 

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第64回

Abstract
斜面または垂直壁面にそって薄膜状に流れる粘性流体の流れは、表面に特徴的な 波が立つ様子が比較的簡単に観察できることもあって、流体力学的なパターン形成の 問題のひとつとして古くから研究されてきました。 今回のセミナーでは、このような 波の挙動を再現する各種方程式についての入門的な話をします。

第63回

Abstract
Zipf則は,文書中の単語の出現頻度の降順の順位が,出現数の逆数に比例するという経験則であり,Heaps則は,文書中の異なり語数が,総単語数に対し1よりも小さいベキ乗で増加曲線描くことをいう.これらの法則は,作家の文章や一般人が書いたブログ記事,また日本語や英語,プログラミング言語に至るまで,幅広く観測でき,Zipf則からの派生現象としてHeaps則は捉えられることが多い.しかし,実測した異なり語数とZipf則で人工的に作った文書では,実測したHeaps則は再現できず,実測した異なり語数に数を加えることによってHeaps則を再現できることをシミュレーションで示し,それらから考えられる潜在語彙の規模について考察する.

第62回

Abstract
線形(1次)変換の結果から信号を復元する問題を考える. X線の回折画像から結晶構造を同定するX線結晶構造解析,NMRによって 観測される磁気緩和の信号から体内の断層画像を再構成するMRIなど, こうした仕組みにもとづいた観測/計測技術は学術/実社会応用を問わず 広く利用されている.対象となる信号を復元するために必要な観測数は ナイキスト=シャノンの標本化定理によって見積ることができる. 標本化定理はフーリエ領域においてある上界以下の 周波数成分により構成される任意の信号についての復元可能性を 保証する「最悪評価」の結果である.このことは,対象となる信号が何らかの 統計的特徴を有する場合,その特徴を事前知識として利用することで, より少ない観測値から信号を復元できる可能性を示唆している. 特に,多くの信号について期待される「疎性」(適切な基底を用いて表現する とゼロ成分が多数を占めること)を事前知識とすることでこうしたアイデア を実現する試みは「圧縮センシング」とよばれ,2000年代半ば以降 急速に研究が活発化している.本講演では,線形観測の結果に疎なノイズが加算 される状況に対して,圧縮センシングのアイデアにもとづき効率的な ノイズ除去を行う方法を提案しその性能を吟味する.

第61回

Abstract
Foam(発泡体)とは、薄い液層で区切られた細かな気泡の集合体を指す。ビールの泡やホイップクリームなど、日常目にする Foamをよく観察すると、気泡が全て小さな多面体形状を示すことがわかる。この多面体の体積は、隣接気泡間のガス移動を通じて互いに変化するが、実はそ の振る舞いは驚くほどシンプルな式で表現できる。例えば Foam を2枚の平行板の隙間に挟みこんだ2次元 Foamの場合、n個の辺をもつ気泡の面積をSnとすると、Snの時間t依存性は単純なvon Neumann則: dSn/dt∝(n-6)で記述される。この法則は、ある一つの気泡の運命が、単に気泡を形作る辺の数(=トポロジカルな量)だけで決まり、気泡の形や大 きさが関係しないことを意味している。よって五角形の泡は必ず収縮し、七角形の泡は必ず膨張する。実際ビールグラスを手にとって、その目で確かめるのも一 興であろう。
本講演では、上に記したvon Neumann則の導出を軸として、当該分野の最新動向と未解決問題を概観する。さらに、Foamの形成機構問題が、ソフトマター物理・生物物理全般と広く関係する様子を紹介する。


第60回

Abstract
摩擦は最も身近な物理現象の一つであり古代から多くの研究がなされてきたが、その基本的な機構について未だ未解決の問題が多い。しかし近年、実験技術、理論、計算機等の発達により、著しい進歩を見せている。一方、ナノテクノロジーなど新しい技術の進歩は新しい摩擦の問題を生み出し、それらは物理の問題としても極めて興味深い。また固体界面の滑り摩擦は、第2種超伝導体中の磁束格子や低次元導体中の密度波のピン止めと運動、さらには地震など、様々な物理現象と密接な関係がある。本セミナーでは、身近な摩擦からミクロな摩擦にいたる様々なスケールの摩擦の研究の歴史と最近の進展を概観したあと、代表的な固体潤滑剤であるグラファイトの原子スケールの摩擦に関する我々の研究を紹介する。この研究によって、固体潤滑剤としてのグラファイトの摩擦潤滑特性の原子レベルからの理解が初めて得られたと考えている。

第59回

Abstract

採餌をはじめとするアリ集団の行動を記述するため、これまで様々な数理模型が提案されてきた。 ただし、(我々のものを含めて)従来の多くの模型では、個体の移動を支配する走性として フェロモンに対する走化性のみが考慮されている。また、走化性を引き起こすフェロモン の感受度について、同等なアリのみから構成されているという模型が大多数である。  一方で、現実のアリは、走化性だけではなく、光の方向を感知したり歩数カウンターを 保有することで、総合的に方向を検知し巣と餌場を行き来する。また、フェロモンに対する 感受度も個体によって異なることが分かっている。  今回は、個体に依存した走化性、走化性以外の走性を考慮した数理模型を紹介し、 実験・観察事実と比較しながら、アリの集団採餌におけるトレイル形成の問題や 集団内での役割分担の問題を考察していく。

第58回

Abstract

実空間に分布し動的内部自由度を持つ素子の集団を考える。 このような系は、細胞群、非平衡下の分子群など枚挙に暇がない程多様に 偏在する。そこに通底する一数理構造を探求するべく、極力少ない仮定のもと、 解析計算可能なミニマルモデルの一候補を模索、導出する。 具体的には、走化性を示すリミットサイクル振動子の集合体に対し、 振動子の超臨界Hopf分岐点近傍において中心多様体縮約を実行した。 導出された数理モデルは、豊富な創発構造を呈する。また、このモデルは ダイナミカルネットワークや流動的スピングラスと捉えることもでき、 今後の発展が期待される。

第57回

Abstract

While classical thermodynamics uses equilibrium descriptions for the characterization of thermodynamic systems, all processes occurring in reality are irreversible and in many cases these irreversibilities must be included in a realistic description of such processes. Endoreversible and finite-time thermodynamics are non-equilibrium approaches develloped over the past three decades which focus on the irreversibilities in real thermodynamic processes. Endoreversible thermodynamics views a system as a network of internally reversible (endoreversible) subsystems exchanging energy in an irreversible fashion. In this talk a general framework for the endoreversible description of a system is presented, followed by a discussion of the performance of such systems.

第56回

Abstract

ガラス的振る舞いを示すコロイド多体系を例にとろう。 ある粒子が移動するには、そのまわりの粒子の隙間があくことが必要である。 この隙間があいて粒子が移動することを「動的事象」として捉えると、自由に 動ける相と固まる相の境界では、(もしあるなら)、動的事象が空間的に強く 相関している可能性がある。このような指摘は10年ほどまえからなされていた が、近年、急速に定量的実験や理論化がすすみつつある。 ところで、このような「揺らぐ動的事象の協同現象」はガラス系に固有なもの ではないだろう。意識して調べれば、様々な系で同様な現象があるように思え る。このセミナーでは、そのような普遍性を予想し、揺らぐ動的事象の協同現 象について広く考察し、それを示す理論的な簡単なモデルを提示し、それを解 析する方法を示す。

第55回

Abstract

 自然界におけるパターン形成に関して、反応拡散系の枠組みでさまざまな 研究が進められてきた。しかし、生物のおもしろさを考えると、反応拡散系 の枠組みで形成されたパターンがどのように運動を引き起こすのかという点 も興味深い。われわれは、これまでに化学エネルギーから自発的運動を生み 出す簡単な実験系を考案してきた。 本発表では、そのいくつかの例をあげ、そのメカニズムに関する考察を紹介する。

※セミナーとは別に、当日、北畑さんにBZ反応の実験の実演をして頂く予定でいます。 こちらは物理科学科のオープンサイエンスラボ(オープンデパートメントの企画チーム)が主体ですが、少人数であれば見学可能です。 希望があれば狐崎 (kitsune@ki-rin.phys.nara-wu.ac.jp)まで連絡してください。 なお、実験の時間によって、セミナーの開始時間が多少ずれることがあります。

第54回

Abstract

The phase-space trajectory of many-body systems is dynamically unstable. This instability is described by a set of rate constants, the Lyapunov exponents. We demonstrate that perturbations associated with the large exponents are localized in space, and that perturbations giving rise to small positive Lyapunov exponents exhibit coherent patterns in space, the so-called "Lyapunov modes". We discuss the symmetry properties and the dynamics of these modes for soft and hard repulsive interaction potentials, and for rough spheres.

In nonequilibrium stationary states the sum of all Lyapunov exponents is negative, an indication of the fractal nature of the phase-space proabability density. The dimensionality loss may exceed the dimensionality associated with the thermostat. Nearly all of the dimensionality loss may occur in the nonthermostated part and persists in the large-system limit. Both dynamical and stochastic thermostats are discussed.

We also present recent results for gravitational systems and discuss the stability and ergodic properties of some model systems. It will be shown that the stability of the sun may be understood as a delicate interplay between the gravothermal effect (negative specific heat), the heating by thermonuclear reactions, and the energy loss due to radiation.

第53回

Abstract

神経回路や生体高分子などの生物系において、多様な情報がある程度の長期にわ たり安定して存在することは自明なことではない。生物の持つ情報の安定性と多 様性を スピングラスの準平衡状態として理解しようという試みがスピングラス理論の展 開に伴 って提案された。一方で長距離スピンモデルの示す性質はガラス転移の発見によっ てス ピングラス理論の枠を越えるものとなった。このセミナーでは生物系の安定性と 多様性 に対して、ガラス転移を示すスピンモデルからどのような提案がありうるかにつ いて解 説する。具体的には反学習スピンモデル、多電荷ネットワークモデル、ヘテロポ リマー の進化モデルなどを取り上げる。

第52回

Abstract

非線形ダイナミクスならではの、一見逆説的な現象を二つ紹介する。
(なお時間的制約から、いくらか割愛する部分もある。 皆様のご志向に適宜合わせて講演したい。)

1 結合もなく強制外力も受けない振動子群が、 振動子群に共通の加法ノイズにより同期する事を示す。 単一ニューロンの reliability との関連でも注目されている現象に、 非常に標準的でシンプルな解析によりアプローチするものである。 具体的には、白色ガウスノイズを受ける limit cycle 振動子を位相縮約し、 Liapunov指数を解析的に求め、これが負になることを示す。

2 単一では減衰して消えて行く長波長モードが、 Turing の自発的な空間構造形成を妨げることを示す。 このような現象は地震波のモデル(Nikolaevskii方程式)や、 液晶対流系での実験でも議論されている。 具体的には、あるクラスの振動性反応拡散系から、 Turing、Benjamin-Feir 両不安定性の余次元二点近傍で Nikolaevskii方程式と等価な式を導出する。 この式は超臨界的に時空カオス状態を呈すが、 その統計性質や、臨界点近傍を記述する特異な小振幅方程式も紹介する。

第51回

Abstract

A model of phase separation of chemically reactive ternary mixtures is constructed. In this model, spatially periodic structures which coherently propagate at a constant speed are self-organized through a Hopf bifurcation at a finite wave number. We investigate the effect of temporal modulation on the spatio-temporal patterns, which is introduced by making one of the reaction rates periodic in time. It is shown by computer simulations in two dimensions that when the external modulation is present, various types of standing waves emerge near the special point in the parameter space. We also consider the case that the external forcing depends on both space and time. A theoretical analysis to understand the phase diagram of the synchronized structures is also carried out.

第50回

Abstract

A renewed interest has recently developed for the statistical mechanical theory of disordered finite connectivity spin models, where each spin interacts with only a finite number of randomly selected peers, even in the thermodynamic limit. Such models arise in the context of spin glasses, but also in many interdisciplinary application areas of statistical mechanics such as error correcting codes, Boolean satisfiability problems and recurrent neural networks. So far the emphasis of statistical mechanical analysis has been on finitely connected models with discrete spins. Here it is clear how the ergodic, or replica symmetric (RS), ansatz is to be defined in terms of a distribution of effective fields. The theory for soft spin versions of finite connectivity systems appears much less developed. Here the RS order parameter is found to be a functional. In this talk I will present an informal overview of research in progress on a number of finitely connected soft spin systems, including models with disordered chiral interactions and `small world' spin-glasses (where one needs replicated transfer matrices).

第49回

Abstract

生体の免疫機能は様々な組織・細胞・分子が巧みに協力し合うことで、外界から侵入する異物=抗原に備えている。その中でも獲得免疫と呼ばれる、抗体による 抗原の緩和では抗原の種類に対する特異性や一度遭遇した抗原に対しては2度目以降は迅速かつ強力に反応できる等の非常に興味深い特徴を持っている。また、 免疫応答時には抗体を生成するB細胞が高い頻度で突然変異を起こすことがわかっている。本研究では、獲得免疫特有の特徴を記述する力学系モデルをもとに、 B細胞の突然変異も考慮したモデルを扱っている。セミナーでは、前半は現実の免疫系をできる限り考慮したモデルにおける数値計算の結果と現実の抗原抗体反 応の時系列との比較を行い、後半はこのモデルをネットワーク型に拡張したモデルの紹介をする予定である。

第46回

Abstract

 1991年Budrene と Berg は大腸菌のコロニ−形成において、あたかも 美しい花びら形状のようなパターンが出現することを観察し、それは1995年の Natureの表紙を飾ったのである。彼等はバクテリアと養分の「食う・食われる」 の関係に自らの集合性を高めるための走化性効果が微妙に影響を与えているであ ろうと述べている。本セミナーでは数理モデルを用いることから、この点を明らかに したい。

第45回

Abstract

ニューラルネットワークの数理モデルは、大自由度かつ非線形な 力学系と見なすことができ、統計物理学の手法と非線形動力学の 手法を用いた解析が非常に有用である。本講演では、最近著者等 によってなされた2つの研究を取り上げ、それらの有用性を示す。

1.系列パターンを想起するニューラルネットワーク

系列パターンを想起するニューラルネットワークに対して、 多値伝達関数を用いた場合の性能を経路積分表示の母関数 による解析と計算機実験を用いて調べたので、 その結果を紹介する。

2.2層ニューラルネットワークのオンライン学習

2層ニューラルネットワークのオンライン学習では、 各隠れ素子と入力素子間の結合ベクトルの対称性により、 学習曲線に対してプラトーが現われ学習が遅くなることが 知られている。そこで、著者等は、その対称性を破るために 結合切断を導入した場合の性能を非線形動力学の手法を 用いて調べたので、その結果を紹介する。

第44回

Abstract *1

We study the relaxation process and the quantum survival probability in open quantum systems. We find a universal decay law which derives from the exponentially long times required to escape from a given region of phase space due to tunnelling and localisation effects. The physical example of the time dependence of ionisation probability in Rydberg atoms is considered. We also discuss the origin of fractal properties of quantum survival probability fluctuations.

Abstract *2

In interacting many-body systems such as nuclei, complex atoms, quantum dots and quantum spin glasses,the interaction leads to quantum chaos characterized by ergodicity of eigenstates and level-spacing statistics as in Random Matrix Theory. In this regime, a quantum computer eigenstate is composed by an exponentially large number of quantum register states and the computer operability is destroyed.
Here we model an isolated quantum computer as a two-dimensional lattice of qubits( spin halves ) with fluctuations in individual qubit-energies and residual short-range inter-qubit couplings.
We show that, above a critical inter-qubit coupling strength, quantum chaos set in, and this results in the interaction-induced dynamical thermalization and the occupation numbers well described by the Fermi-Dirac distribution. This thermalization destroys the noninteracting qubit structure and sets serious requirements for the quantum computer operability.
We then construct a quantum algorithm which uses the number of qubits in an optimal way and efficiently simulates a physical model with rich and complex dynamics. In particular, we can simulate dynamical localization of classical chaos and we show that, even in presence of static imperfections, a reliable computation of localization length is possible.

第43回

Abstract

非線形振動子(リミットサイクル振動子)多体系は、大自由度力学系の 重要なカテゴリーのひとつであり、その多彩な振る舞いは非線形動力学の 格好の研究対象となっている。特に、そのような系の示す巨視的同期現象 は、様々な生物現象と深い関わりを持ち、工学的応用の観点からも、近年 高い注目を浴びている。このコロキウムでは、講演者の視点から、この 現象の数理的メカニズムを明らかにし、関連する実験的研究の紹介なども 行う。 

第42回

Abstract

化学反応の動力学を理解するためには、 多自由度ハミルトン系の相空間構造を解明することが必要となってくる。 ここでは、主に次の3点の観点から、相空間構造の解明に向けた試みを報告する。
第一の観点は、ポテンシャル井戸内のダイナミックスを、 非線型共鳴の網の目(Arnold web)を通じて理解する方向である。 ここでは特に、非線型共鳴の交差が成す階層構造の重要性を指摘する。 第二の観点は、複数のポテンシャル井戸を経由する過程の動力学的相関の可能性である。 特に、ポテンシャル鞍点近傍に存在する法双曲的不変多様体と、 ポテンシャル井戸内の非線型共鳴の間のヘテロクリニック交差の重要性を指摘する。 第3は、ポテンシャル鞍点を、十分なエネルギーを持って越えていく過程の問題である。 この時、鞍点近傍の法双曲的多様体は、もはや消失している可能性がある。
以上の観点を踏まえて、多自由度ハミルトン系としての蛋白質折り畳み過程に対して、 「重要な自由度」を切り出すための試みを報告する。 なお、この最後の部分は、小松崎民樹氏(神戸大学)との共同研究である。

第41回

Abstract

さらさらの砂のように乾燥した粉体が重力下で静止している時、 その内部には過去の粉体粒子の運動の履歴を反映した応力状態が形成される。 これは粉体では熱揺らぎが無視でき、かつ粒子間に摩擦力が働くため、 無数の準安定状態があることが原因であるが、粉体の運動が粉体内に記憶され る機構は明らかでない。 一方、通常の固体でこのような履歴現象が起きるのは、典型的には物質内に 破壊が生じた場合である。粉体の破壊がどうのように起きるかを調べること はこの問題の手掛かりになるだろう。 始めに、我々(車谷・狐崎)の行ったガラスビーズをV字型容器に入れて行った 簡単な実験の結果を紹介する。 V字の壁をゆっくり開くことで、容器内の粉体に平行な断層が複数発達するが、 この断層間隔は粒子径やシステムサイズ(粒子数)には依存しないと考えられる。 粉体の断層の発達はDEM(離散要素法)を用いて数値的に再現できるが、 応力分布を観察すると、巨視的な断層が発達する以前にミクロな断層が多数発 生していることがわかる。 これをより簡単に均一粒径の粒子が規則格子をなす場合に詳しく調べてみると、 容器の変形に伴ってミクロな断層が粉体内を伝播しながら発達することがわかった。 このようなミクロな断層の発達の機構を数値的、理論的に調べた結果を報告したい。
6/27の府大のセミナーとほぼ同じ内容の予定です。

第40回

Abstract

 時間スケールが等比級数的(τi)に分布した非線形振動子結合系を用い、 中間的なスケールのダイナミクスで"中継"することの意義を議論する。 ここで、影響を与えるというのは、 速いスケールの動的な性質を定性的に変化(分岐)させたときに、 遅いスケールの動的な性質も定性的に変化(分岐)することを意味する。 断熱近似が成立する系ではこのような性質は期待できないが、 分岐カスケードという機構によってこれが実現しうることを示す。  時間があれば、これらの研究の空間スケールバージョンについても少し触れたい。 様々な空間スケールの Turing Pattern が混在する系で、 中間的なスケールの Pattern の"中継"により、 スケールを貫く相関が生成しうることを示す。  これらの研究が、スケールが混在する系に対して どのような理解の切口を与えられ得るかについて、 議論していただけたらと思ってます。

参考文献:
K.Fujimoto and K.Kaneko, preprint in LosAlamos,  nlin.CD/0108038

第39回

Abstract

水は大きな比熱、4℃の密度極大など異常な性質を持つが、 その異常性は水を0℃以下に過冷却したときにさらに顕著になる。 比熱、圧縮率は発散するような振る舞いを見せるため、 隠れた相転移点が過冷却領域にあるのではないか? すなわち、水には2種類あって水ー水相転移があるのではないか? という推測がされている。さらに、様々な緩和時間も同じ温度領域 で発散の兆候を見せており、ガラス転移の存在も予測されている。 ガラス転移と水ー水相転移が近くにあるように見えるのは偶然の一致か、 それとも必然か?この問いをエネルギーランドスケープ描像の立場から 分析する。複雑な多谷ランドスケープ上の運動を調べることによって、 水の研究が複雑系の理論にどのような貢献をするかを考えてみたい。

第38回

Abstract

量子多体系ダイナミクスの実用的な計算法を開発すること、またそれを用い て多分子系としての物質・材料の量子統計力学的な物性・現象を解明することは 、 現在の化学・物質科学の重要な課題である。われわれは、経路積分セントロイド分子動 力学(セントロイドMDまたはCMD)法による半古典ダイナミクスについて、
(1)実在系への適用
(2)方法の拡張
の2つの側面から研究を行っている。

本セミナーでは、最近のわれわれの研究のうちの2つの成果

(I)発表者が1998年に液体パラ水素のCMDから予言した集団励起の様相が、 その後、1999−2001年の欧州における中性子散乱実験によって観測・確認 されたことについて述べる。

さらに、

(II)(I)のCMDはボルツマン統計に従う従来からのCMDであるが、われわれが 既に1999年に考案したボーズ統計・フェルミ統計のためのCMDに対して、最 近量子力学的演算子を用いた基礎づけ(定式化)を行ったので、その概略について述 べたい。

第37回

Abstract

ニューロンとシナプス結合荷重がともに時間変化する自己結合型 ニューラルネットワークの定常状態の統計力学的解析結果について報告する。

結合荷重は、固有の時間スケールで特徴づけられる L 個のグループ(レベル) に分割され、これらのレベルは階層構造を持つとする。 すなわち、ニューロンが最も速く変化し、レベル1の 結合荷重は、次に速く変化し、、、レベル L の結合荷重は、最も遅く変化すると 仮定する。

ニューロンとシナプス結合荷重は、 それぞれ固有のランジュバン方程式に従うとする。 これは、自己プログラミングのモデルとみなすこともできる。 例えば、数値計算などのプログラムにおいて、 殆んど書きかえられない部分と、頻繁に書きかえられる部分が存在する。 我々のモデルでは、 ゆっくりした時間変化を行うシナプス結合はプログラムに対応し、 プロセッサーに対応する速く変化するニューロンが それらを駆動しているため、 自らプログラムの書き換えが行われるモデルとなっている。

i 番目の 相互作用 に 印加されるノイズを特徴づける'温度'を Ti とすると、 Ti-1 と Ti の 比 mi の L 個の組{mi} が パラメータとなる。 (T0=T は、ニューロンについての'温度')。 レプリカ法を用いてこのモデルの解析を行うと、レプリカ対称(RS)解は、 Parisi の L 段 レプリカ対称性破り(LRSB) 解 に類似の形となる。 しかし、m に対応するパラメータ mi は 必ずしも1以下に制限されない。 {mi} を変化させると、RS解の範囲で、様々なスピングラス相が現れる。 特に、レベル1の結合荷重が決定論的法則にしたがう極限では、 {mi} の値に応じてある j が決まり、 パラ状態 P から SGj(*注) への一次相転移が生じる。 これはユニバーサルな法則に支配されていることが分かる。

セミナーでは、L=2,3の場合の相転移について、具体的に議論する予定。

(*注) 例えば SG1 は、 レベル1に固有 の時間スケール ではニューロンとレベル1の結合荷重は レベル2の結合荷重に依存した凍結状態にあり、 レベル2の結合荷重はゆっくり変化する状態を表す。

参考文献:
プレプリント   cond-mat/0109099
Hierarchical Self-Programming in Recurrent Neural Networks,
T Uezu and A C C Coolen, 2001.

第36回

Abstract

Gallagerの低密度パリティ符号(LDPC符号)は、 復号アルゴリズムにビリーフ・プロパゲーション(BP) を用いると高性能な誤り訂正能力を示すことが知らている。 BPアルゴリズムは、 人工知能の分野で提案された事後確率を効率的に計算する手法である。 近年、樺島らによりBPアルゴリズムはスピングラス分野で知られているTAP方程式と同一である事が示されている。

さてLDPC符号の実用化(つまり回路化)を考えたとき、 BPアルゴリズムは実数値の演算を行う素子を必要とするため、 コスト面での難点が発生する。 そこで、連続値の演算を必要しない離散素子による高性能な復号アルゴリズムの構築が求められる。

本講演では、LDPC符号の離散復号アルゴリズムと統計力学の関係について述べ、 符号理論の分野で知られているRichardson & Urbankeの離散アルゴリズムを拡張した復号法の提案を行う。

第35回

Abstract

90年代半ばにおける、MacKay-Neal の再発見により Gallager によって 提案された低密度パリティ検査符号(LDPCC)が高性能な誤り訂正符号とし て脚光を浴びている。我々は LDPCC がスピングラスモデルと類似した システムであることを指摘し、レプリカ法を用いてその性能評価が可能で あることを示してきた。
一方、誤り訂正符号はもともと情報理論と称される枠組の中で研究され てきた問題であり、その解析にはその枠組で開発された固有の技法がある。 従来歴史的に異なる背景を持ちながら発展して来た統計力学と情報理論が LDPCC の解析によって初めて「道具」として同列に扱われることになった 訳であり、それぞれの枠組間の関係を明らかにすることは興味深い。

本講演では、現在、情報理論における標準的な解析技法として知られて いる典型系列解析(typical sequence analysis)と統計力学で開発された レプリカ法との関係を考察した結果について述べる。

参考文献: cond-mat/0106323

第34回

Abstract

【1】イジングパーセプトロンによる非単調入出力関係の学習
-----学習曲線と完全逆学習の解析-----
イジングパーセプトロンの教師有り学習において、 決定境界近傍で教師出力にノイズが入り、 教師パーセプトロンの入出力関係が非単調となる場合の 学習過程を考察する。 今回扱うモデルでモンテカルロシミュレーションによる数値計算を行うと、 ノイズの範囲を示すパラメータ a の大きさにより、 教師と生徒のオーバーラップ R は、例題数の増加に伴って、 R →+1 、R = -1 、R → const のように振る舞うことがわかった。 今回は R = -1となる完全反学習の存在する条件を重点をおいて調べた。 さらに、R → const となる場合について、 レプリカ法による理論計算と比較した結果を報告する。 あわせて、モンテカルロシミュレーションでの有限サイズ効果についても報告したい。

【2】大自由度免疫ネットワークの生成
イディオタイプ相互作用を取り入れた免疫ネットワークモデルにおいて、 抗体の濃度がある閾値を越えた場合のみ他の抗体に影響を及ぼす、 という制限を付け加えたある程度大きな系を考察する。 各クローンにランダムに結合行列を与えた場合では、 クローン数が少ないときにはネットワークはいくつかのグループに分かれることがあるが、 ある程度の数になると全体に広がったようなネットワークを形成し、 カオス状態になる。このカオス状態において、 ある時間範囲内において閾値を越えた回数に応じて結合行列の強度を一度だけ更新すると、 系が周期解に落ちる場合があることがわかった。 これより、ある程度大きなネットワークがどのような構造を持つかは、 ネットワークの生成過程における様々な条件が影響を与えると考えられる。 セミナーでは、ネットワークの生成過程とその構造についての考察を報告する。

第33回

Abstract
ナノサイズ程度のクラスターは、そこに含まれる約半数の原子が表面にあり、 内部に残りの半数の原子があるという点に注目すれば、 表面とバルクが混在した系であるといえる。ここでは、 保田-森(YM)らによって発見された2元合金系マイクロクラスターの 「自発的合金化現象」に対するシミュレーション を通じて、「表面−バルク混在系としてのクラスター系における原子拡散 機構について議論する。
バルク内での原子の拡散機構は欠陥を介する拡散メカニズム、 格子間拡散メカニズムなどのいくつかの基本メカニズムに分類されることが知られている。
一方、バルク表面では、固体中の拡散よりも速い拡散が、 欠陥の集積物としての表面の存在によって誘起されることが知られている。 表面とバルク双方が共存する結果として、ナノサイズ程度のクラスター系において、 急速な原子拡散が、融点よりも十分低い温度領域でも起こることを示す。
表面融解に駆動された拡散メカニズムを提案し、 これがYMらによって発見されたナノサイズ2元合金クラスターでの 「自発的合金化」(溶質原子の急速拡散)の解釈になりうるかという点についても検証する。

第32回

Abstract
空間に広がるリミットサイクル集団を用い、 ペースメーカーへの振動数同期と乱れによって引き起こされる同期の破れを解析する。 乱れのない場合は大域的な振動数同期状態が安定に得られのに対し、 乱れが存在する場合は振動数同期が急激に破れる空間的領域が現れる。 この同期の破れは散逸的な振動子集団のもたらす一種の協同現象である。 これらの現象と解析を報告する。

生体では、例えば、心臓やナメクジの嗅覚系、粘菌などで振動数の同期現象が見られ、 情報伝達に本質的な役割を果たしている。 空間的な振動数同期は長距離秩序形成と見ることができる。 このような視点から、散逸的な振動場に置ける相転移と、 生体で不可欠な情報輸送のロバスト性についても考察する。

第31回

Abstract
化学反応論の研究対象は、可逆な力学で記述されるミクロな領域から、 不可逆性が支配するマクロなレベルにまで渡る。これは、化学反応論を、 ミクロとマクロの境界領域として研究する必要性を意味する。特に、 近年の実験、および理論的な研究の進展は、化学反応論を新たな舞台として、 「統計力学の基礎付け」をめぐる問題を提出するとともに、他方で、 多自由度ハミルトン系のカオスとしても、新しい課題を提供する。

ここでは、平衡系の統計力学に基付く統計的反応論を越え、 力学系に立脚した新たな反応過程論の建設に向けて、 これまでの研究を振り返り、今後の展望を探る。

参考文献: 境界領域としての化学反応論、「オープンダイナミックスの諸相」研究会の予稿

第30回

Abstract
免疫系は巧妙かつ高度な方法を用いて作動する巨大なシステムであり、 その構造はまだ完全には解明されていない。 近年、この自然の作り出す壮大かつ柔軟なシステムを他の様々な分野において 利用しようとする動きがあり、医学的だけでなく、 理論的アプローチも注目されている。 我々が扱っている免疫系のイディオタイプネットワークモデルはF.J.Varela により提唱されたものである。 この他にも、免疫系の様々な現象に注目した異なるモデルが存在する。 今回は、現実の免疫系で起きている様々な現象を表現したモデルを紹介すると共に、 我々が扱っているモデルにおける大自由度系への拡張へむけて、 現在までの研究結果を報告する。

第29回

Abstract
Price fluctuations in speculative market dynamics have interesting statistical properties. As temporal ones, (1) vanishing autocorrelation of return, (2) intermittency and long-memory in the magnitude of return, called volatility, (3) self-similarity of volatilities for different time-scales. These properties in strongly correlated regime from minutes to months are crucial for understanding market and to control risk. First, I will talk about how well one can characterize the statistical properties of such non-equilibrium nature. Second, by using models, I will speculate that the origin of these may be understood as aggregate behavior of human speculations. (The second part being under study, I welcome any comment and critique.)

Ref: Y. Fujiwara and H. Fujisaka, cond-mat/0101175

第28回

Abstract
古典力学系のカオスが量子現象に如何なる影響を及ぼすかを解明するためには、 半古典量子化が不可欠である。 半古典量子化法は可積分系に対してはある程度上手く行くが、 カオス系では周期軌道の指数関数的な増大に起因する発散の困難を回避できないため 上手く行かない。 これに対して、我々は積分方程式のフレドホルム理論を用いて絶対収束級数により定義される関数の零点を用いて 量子ビリヤードの固有エネルギーと共鳴を与える公式を導出した。 この絶対収束級数の半古典極限を用いて、半古典的に、即ち、 古典力学の情報だけを用いて、 カオス系を量子化する方法として半古典フレドホルム行列式を提案する。 この方法は、カオス系の形式的な半古典量子化として知られている Gutzwiller-Vorosゼータ関数の発散級数の再和ともなっている。 また、有限個の記号による記号力学が存在する場合には、 Cycle-expanded Gutzwiller-Vorosゼータ関数と全く同じである。

また、絶対収束性に対する半古典近似(ハンケル関数の漸近展開と定常位相近似) の有効性は明確ではないので、Concave Triangle Billiard に対して、 半古典量子化法を適用しその有効性を数値計算により詳しく調べた。 その結果、絶対収束性は破れていることがわかった。しかし、級数の振る舞いは、 漸近級数のようであり、最適な打ち切りにより、 平均エネルギー準位間隔に比べて非常に小さい誤差の範囲で、 半古典的な固有エネルギーを得られることがわかった。

第27回

Abstract
We describe a mechanism for autonomous organization of functions in ad-hoc distributed network systems mediated by communication. The mechanism involves local adapation of transmissions which results in the formation of multi-hop signal paths among functional units.

Summary
In this presentation I will describe a mechanism for distributed organization of transmissions in networks in which local adaptation of transmissions is coupled to global organization. Specifically, the mechanism adapts transmission weights at each node in a network depending only on the compatible signals passing through the node. The effect is that multi-hop signal paths form automatically in the network.

The key mechanism of self-organized path formation was inspired by observations of the phenomenon of self-organized links of laser beams in nonlinear crystals, known as mutual-pumped conjugation [2]. Laser signals propagating through a crystal volume alter the scattering properties of the crystal in such a way that signals concentrate in particular paths through the crystal. Path competition and selection are driven by positive feedback mechanisms, which tend to maximize energy transmission in counter-propagating light beams of similar wavelength. This mechanism has some similarities with other known mechanisms for trail formation in natural systems [3] and telecommunication networks [4].

The mechanism for path formation can also be coupled with the effects of behaviors which are made possible by communication over the paths. This is of interest from the point of view of understanding how the organization of functional structures in nature may be mediated by communication. It is also of interest for engineering electronic systems which are highly adaptable at both physical and logical levels, and allow self-organization of new behaviors due to the interplay of different levels of communications, including the physical and logical levels. We describe particular applications to multi-hop wireless transmissions among electronic devices and cooperative processing.

References
[1] P. Davis, "Adaptive networks with self-organizing multi-hop links", Proceedings of the First NASA/DOD Workshop on Evolvable Hardware, (IEEE Computer Society, 1998) 145-150.
[2] P. Davis, K. Ikeda, "Ray-lattice model for complex beam formation in self-pumped phase conjugation'', Proceedings of the Topical Meeting on Photorefractive Materials, Effects and Devices PR'97 (Optical Society of America, Chiba, 1997)
[3] D. Helbing, F. Schweitzer, J. Keltsch, P. Molnar, "Active walker model for the formation of human and animal trail systems'', Physical Review E, 56 (1997) 2527-2539.
[4] R. Schoonderwoerd, O. Holland, J. Bruten, L. Rothkrantz, "Ant-based load balancing in telecommunication networks'', Adaptive Behavior, 5 (1997) 169-207.

第26回

Abstract
1.カオス時系列予測の最適パラメータの特徴づけ
「時系列予測」とは、時間と共に変動する現象(未知な力学系A)を  時系列信号  として観測し、その性質を解析(Aの力学構造を推定)し、 さらに将来の変動の予測も行うものである。今回、計測する「時系列」としては、 乱雑なもの、特に、その乱雑性が「決定論的カオス」によるものを用いる。 カオスには、「初期値に対する鋭敏な依存性」、「軌道不安定性」、 「長期予測不能性」等の特徴があげられるが、 それが決定論的な法則に支配されているため、 誤差の爆発が現れる前までの近い未来に関しては、予測の可能性が期待出来る。 今回は、この「決定論的カオス時系列の短期予測」の、予測モデルの  最適  パラメータについて報告したい。

2:粉体─水混合系における界面の動力学
細粒と蒸留水を混ぜたものを2枚のスライドガラスの間に挟み、 これを水平に置いて乾燥させると、空気領域と固まった細粒領域によって、 迷路パターンが形成されることが、山崎,水口両氏の実験により分かっています。 双安定系の拡散方程式を用いたモデルによる、その現象の再現への途中経過を、 今回は報告する。

第25回

Abstract
過冷却液体をさらに冷却すると、 ある温度でその運動が少なくとも実験の観測時間の範囲で凍結する。 この転移をGlass転移とよび、凍結した物質をGlassと呼ぶ。 Glassは固体的性質を部分的に保有するため日常的に固体として取り扱って差し支えないが、 決して固体ではなく、さまざまな非平衡特有の性質を保有する。 それは状態の環境に対する非一意性であり、記憶を保持であり、 エイジング現象のようなスローダイナミクスの存在である。 このようにGlassは決して熱力学的存在ではない。 ではGlassには熱力学に代わる普遍原理は存在するのだろうか、 そしてGlassを特徴づけることのできる方程式 すなわち状態方程式は構成可能か、このような問に将来答えたい。 そのための第一歩として今回は格子モデルの数値実験により、 Glass相の巨視的性質を調べることにする。 モデルとしてBinary Lattice Gasモデルを導入し、 そこにピストンによる操作を加えることによりその熱力学情報を検知した結果 を報告する。

第24回

Abstract
ほぼ粒径の揃った球形のガラスビーズ(直径約0.1mm〜0.3mm)を容器に入れ、 その容器の底をゆっくり変形させていくと表面に約5mm ほどの間隔で縞状のパターンができることが分かった。これは、 内部の粉粒体の動きによって生じると思われる。実験では、 2枚の板をVの字にした容器を用い、板をゆっくり動かす方法でこの現象を調べた。 今回のセミナーでは、この実験結果を報告し、また現在考えている 理論についても報告したい。

第23回

Abstract
1.非単調入出力関係を持つイジングパーセプトロンの完全学習
イジングパーセプトロンの教師有り学習において、決定境界近傍で教師出力に ノイズが入り、教師パーセプトロンの入出力関係が非単調となる場合の 学習過程を考察する。今回扱うモデルで数え上げの方法による数値計算を行う と、出力ノイズの範囲を示すパラメータ a の大きさにより、教師ベクトルと 生徒ベクトルのオーバーラップ R は、例題数の増加に伴って、R → +1 ある いは、R → -1 のように振る舞うことがわかった。さらに、レプリカ法による 理論計算の結果についても報告する。

2:免疫系の力学系モデルIV---大自由度系への拡張---
イディオタイプ相互作用を取り入れた免疫ネットワークモデルにおいて、 抗体の濃度がある閾値を越えた場合のみ他の抗体に影響を及ぼす、という制限 をつけ加えた3つのクローンからなるフラストレーションのある系を基本ユニッ トとし、この基本ユニットを緩い結合でいくつか結合させた系の振る舞いにつ いて報告する。結合されるユニットがある程度の数になると、系内で新たなフ ラストレーションが起り、それが原因となってネットワークが様々な解を経巡 ることができるようになることがわかった。さらに、系に抗原が侵入した場合に ついても報告したい。

第22回

Abstract
統計力学や情報理論において基本的な物理量あるいは概念となっているエントロピ ーを、パラメータq を含む形で  S(sub)q = k(1-(sum over i) p(sub)i**q)/(q-1) のように拡張したものは、(非加法性の)一般化エントロピーあるいはTsallis エン トロピーと呼んでいる。Tsallisが、その一般化エントロピーに対しても従来どうり 、形の上では熱力学形式が成立していることを指摘して以来、さまざまな分野への応 用の可能性などを巡って、少なからず研究者が興味を示し活発な議論が行われてきて いる。しかし、これまでのところほとんどの研究が(熱)平衡状態についてのもので あり、非平衡状態におけるTsallis エントロピーの性質についてはほとんど知られて いないといってよい。 Tsallis 統計の動的側面を捉える意図のもとに、まず、マルコフ過程に従うマスター 方程式の枠組みで考えてみる。Tsallis エントロピーに基づいて”自然に”定義でき る自由エネルギーは、二つの確率分布の間の統計的距離を測るものとして知られてい るKullback-Leibler divergenceの一般化とみなすことのできる一般化相対エントロ ピ ーとなることが解り、更に、それが非平衡状態において時間とともに減少し続けると いうH定理の成立する結果も得られる。H定理の成立は、実はTsallis エントロピーの 関数形とマスター方程式の線形性とに大いにかかわっているもので、一般性はあるも のの、Tsallis エントロピーの動的特徴付けとしては不満足である。 一方、非線形拡散と密接な関係を持ち、定常状態がTsallis分布として与えられる非 線形フォッカープランク型方程式の場合について調べてみると、自由エネルギーの形 をしたにH-関数をとることによりやはりH-定理の成立がある程度一般的にいえるとい う結果を得ることができる。Tsallis 統計には、第1バージョン、第3バージョンがあ り、それらの特徴および関係については十分調べられていない現状に鑑み、H-定理の 観点よりそのあたりの議論を行いたい。

第21回

Abstract
現在構想中の、免疫ネットワークモデルを用いた情報検索作業支援システムの 紹介を中心に、生物的適応システムの工学的応用について紹介する。 自然界における生物の適応や進化メカニズムが持つロバスト性、多様性、柔軟性が、 工学的システムにおいて持つ意義、期待される役割についても考察する。

第20回

Abstract
時系列のデータから予測を行う問題を考えるために、Broomheadらのdelay embedding とRBF(Radial Basis Function)を使ったモデルを紹介する。 そのモデルを用いてローレンツ系の予測を行い、その振る舞いのパラメータ 依存性を調べる。また、系の対称性と予測に用いる変数の関連について考察する。

第19回

Abstract
講義予定

(時間に応じて適当にやります。1ー4、6ー8はやると思います。 実験研究者の興味があれば 9もやります。)

複雑系生命科学入門

1。生命の論理と複雑系生命科学の目標
(complex vs complicated、 部分/全体、sytnax/semanticsの相補性 効率vs安定性、構成的生物学)
2。背景となる力学系 特に カオス結合系 の紹介
CML、GCM(クラスター化、カオス的遍歴、集団運動)
3。内部ダイナミクスを持った相互作用系とそこから得られた細胞社会の論理 (多様化、タイプ化、再帰性、ルール形成、階層生成、内部表現)
4。生命システムにおける安定性と不可逆性ーー 増殖系での普遍現象論は可能か?
(集団での安定性、ホメオカス、生命系でのルシャトリエブラウン原理)
5。情報の起源*
(少数コントロール則、変数のパラメータ化) *研究進展しなければ省略
6。ダイナミクスを中心とした、表現型遺伝型進化論
7。個体性の起源(多細胞生物、増殖ユニットの起源)
8。 分子レベルでのやわらかいダイナミクスとエネルギーの貯蔵
9。 実験複雑系生命科学方法論
--------------
以下は こういう未解決問題があるというくらいのお話
10。ネットワークのダイナミクスでの多様化、モジュール化、進化
(代謝系、シグナル伝達系、神経系:変容、安定性、進化?)
11。社会システムの発展 (動的ゲーム)
12。 認知と言語
(関数マップによるシンボル化、分節化、ルール、メタルール形成)

第18回

Abstract
Grossman,Fujisaka(1982)のモデルのように、強いカオス写像 を一次元格子状に結合させた場合、拡散のタイムスケールが内部運動のタイムスケー ルに比べて非常に長く、ランダムウォークと同等の拡散が生じることが知られてい る。今回、この二つのタイムスケールが同程度のオーダーとなる時の輸送現象自体の 変化を調べるために、単位区間に interior crisis mapSOM写像を用いた結果を報告する。

1.interior crisis map(占部氏)

一次元格子状にinterior crisis mapを結合させた場合について調べる。このモデル につ いて、非常にゆっくりとした変化に注目すると、分布の時間発展を解析的に求めるこ と ができる。また、輸送過程については、mapの単位区間を二つに分け、それぞれの区 間を 物質A、Bと読み替えることによって、「物質A、B」についての一次の化学反応と相互 拡 散を含む反応拡散方程式との対応づけが可能となる。これらの結果について、解析的 手 法と数値計算の結果を示し、報告する。

2.first return map : 周期的SOM写像(伊東氏)

まず第一種間欠性カオスを示すSOM写像を対称化周期化した写像について説明する。 そして、この写像による物理量の厳密解を求め、 間欠性on set付近での輸送過程の相転移、 転移点からの距離と拡散定数の関係などについて論じる。

第17回

Abstract
イディオタイプ相互作用を取り入れた免疫ネットワークモデルにおいて、基本となる ユニットを緩く結合させた小規模なネットワークを考察する。基本となるモデルにお いて、一つのクローンは他のクローンとの相互作用により、抗原の侵入と同じ刺激を 受け、抗体を産生する。3つのクローンからなるフラストレーションのある系を基本 ユニットとし、この基本ユニットを緩い結合でいくつか結合させた場合についてのシ ステムの振る舞いについて報告する。また抗原の侵入するいくつかの場合を想定し、 システムの振る舞いがどのように変化するかを調べるとともに、”ネットワーク”の 意味を考察していきたい。

第16回

Abstract
比較的単純な個々の砂の運動に比較して、それらの集積としての砂丘の動力学は複雑 である。たとえば砂の侵入を防ぐために作られた防砂林がその周辺への砂の蓄積を加 速し、村を襲う逆説的な結果も報告されている。講演では砂丘のダイナミクスに関す る簡単な数理模型を説明し、シミュレーションの結果と理論解析を紹介する。また、 植生が砂丘に与える影響について、植物の成長も含めた模型についても議論し、砂丘 の制御に非線形物理学が貢献できる可能性を探る。

第15回

Abstract
粘土や泥のような物質は乾燥すると収縮して亀裂を生じる。 このような亀裂がどのようにして出来てくるかに関して、層が薄い場合に限定して簡 単なモデルを提案した。 モデルに応力緩和を入れると、亀裂の進展過程含む2次元シミュレーションをするこ とが でき、亀裂の進展速度について解析的に議論することができる。

第14回

Abstract
1. 初心者向けセミナー:「学習の統計力学」
80年代半ばのAmit 等による連想記憶モデルの解析以降,それまで 磁性体・金属・液体などあくまでモノの性質を調べるための解析技法 と思われていた統計力学が組み合わせ最適化問題や誤り訂正符号など 従来物理の研究対象とは思われていなかった問題の解析に盛んに用い られるようになった.なかでも主にフィードフォワード型ニューラル ネットワークの学習能力を研究する「学習の統計力学」は国際会議や ワークショップなどで計算論的学習理論や情報幾何学といった異分野 との交流を深めながら急速に発展し,徐々に物理とも数理工学・情報 理論ともつかない独自の体系を築きつつある.本セミナーでは,この 約10年にわたる学習の統計力学の成果を自分の仕事を交えながら解 説し,今後の展望を述べる.

2. 専門的な話 その1:「誤り訂正符号の統計力学」
Gallager (1962) により提案されながら最近MacKay and Neal (1995) によって再発見されるまで長らく符号理論の本流から忘れ去られてい た低密度パリティ検査符号を統計力学を用いて解析する.2つのラン ダムスパース行列を用いて符号化/復号化を行うこの符号は統計力学 的にはボンド数が高々スピン総数程度であるK体相互作用希釈スピン グラスモデルの基底状態探索問題と見倣すことが出来る.統計力学を 用いることにより従来の情報理論的解析では不可能な典型評価が可能と なる.これにより,I)K>2 体相互作用の符号の性能は Shannon 限界 を達成するがそのままでは復号化が難しいこと,II)K=2 体相互作用 の符号では Shannon 限界を達成しないが性能が少し落ちる代わりに 復号化が容易になること,が明らかになった. 更にスピングラス理論のTAP平均場近似を応用して高速復号化アルゴリズム を構成し,これが近年注目されている Turbo 符号の復号化アルゴリズム と同じであることを示す.

3. 専門的な話 その2:「Wake-Sleep アルゴリズムの動的解析」
最近 Hinton 等により提案された新しい構造のニューラルネットワーク モデルに Helmhortz machine というものがある.本セミナーではこの ネットワークの学習のために提案された Wake-Sleep アルゴリズムの 動的振舞いを解析した結果について報告する. Helmhortz machine とは認識モデルと生成モデルと呼ばれる2つのモデル を対にした構造を持つネットワークでデータからの特徴抽出を行う能力が ある.Wake-Sleep アルゴリズムでは学習を Wake phase,Sleep phase の 2相に分け,Wake phase では認識モデルの振舞いを用いて生成モデルを, Sleep phase では生成モデルの振舞いを用いて認識モデルを学習する. 本研究では特徴抽出の中で最も単純な課題である1因子分析を Wake-Sleep アルゴリズムを用いてHelmhortz machine に解かせたときの振舞いを 統計力学を用いて解析した.この手法を用いるメリットは従来の解析法で は困難な学習更新幅の有限性による効果の解析が可能となることである. これにより,特に Sleep phase での学習更新幅はあまり大きく取るべきで はないことが分った.また,このダイナミクスと spherical スピン グラスモデルのダイナミクスの類似性に関しても言及する.

第13回

Abstract
ホップフィールドによって神経回路とスピンモデルの類似性が指摘され 神経回路モデルが物理学者の関心を集め始めてから約15年が経過した。 単純な自由度の集合が相互作用によってどのような巨視的な振る舞いを 示すかという問題は統計力学の中心にあるテーマであるが、 神経回路や 生物系の場合、学習や進化をモデル自身の変化・発展というかたちで取り 扱うという要素が加わる。 神経回路モデルにおいては古くからヘッブ則による学習が提案され、さまざ まな改良が研究されてきた。これとは別にCrickとMichison によって提案された反学習は、 その単純さやレム睡眠との関係で大変興味 ある考え方であるが、モデルの変化はシュミレーションによって研究されて きたにとどまっていた。 本セミナーでは、まず神経回路モデルの基本的な考え方やホップフィールド モデルの性質を解説し、最近提案された高温相による反学習の定式化を紹介 する。この定式化によって、従来工学的な意味しかないと考えられてきたタイ プ の神経回路モデルにも生物内のモデルとしての意味が与えられることを紹介 する。また興味深いことに、反学習によって現れるモデルは最近注目されてい る 新しい種類のグラス相転移を示すことがわかってきたが、この点についても解 説 をこころみる。

第12回

Abstract
保存系でどのように散逸が生じるかという問題は統計力学の基礎的問題の 一つである。混合性を持つ保存系では与えられた物理量の任意の初期分布 に関する期待値はエルゴード的測度についての期待値に漸近的に収束する。 この過程は初期状態の熱平衡状態への緩和とみなすことができる。 双曲型力学系という強いカオス系では、この緩和率は相関関数の複素面内 の極(Pollicott-Ruelle 共鳴)の虚部で与えられ、対応する緩和モードは 超関数になる。この緩和モードは分布関数の時間発展ジェネレーターの固 有関数で対応する固有値はPollicot-Ruelle 共鳴である。 この系を外界に埋め込むと系の状態は(一般には非平衡の)定常状態に漸近し、 この状態では輸送法則が満たされると期待される。 エネルギー座標を含む多重パイこね変換を用いて上述の理論の概要を論じる。 この変換は可逆な保存系で全エネルギーも保存されるが、初期分布は拡散過 程を経て定常分布に漸近し、定常分布では Fick の法則や Fourier の法則 等の輸送法則が厳密に成り立つ。そして、定常分布や緩和モードはフラクタ ル分布になる。さらに力学の可逆性と分布の時間発展の不可逆性の関係につ いても論じる。

第11回

第10回

第9回

Abstract
ひと山の一次元写像において、ファイゲンバウム定数 $\delta$ は頂点でのベキ $z$ に依存し、$\lim _{z \rightarrow \infty} \delta (z) = $ 有限 であることが知られている。 これは、分岐パラメータを $a$としたとき、$2^n$ 分岐の onset 点 $a_n$ が等比的に 極限値 $a_c$ に 収束することを意味する。\\ ここでは、$z=\infty$ の台形写像について、$a_n$ の解析的表式を 与え、それが指数関数的に $a_c$ に収束すること、即ち $ \delta(\infty) = \infty $ となることを示す。また、 $a_c$ の パラメタ $b$(台形の上底の幅)への依存性を近似的に求める。 更に、数値計算の結果との比較についても報告する。

第8回

Abstract
多数のカオス的な素子からなる系で、素子間の相互作用が十分弱い 場合、それぞれの素子はほとんど勝手にカオス的な運動を示し、系全 体の運動は高次元(素子数と同じオーダーの次元)のアトラクタを持 つカオス系となる。ところが、その状態変数の平均値の様な「集団的」 な運動に注目すると、しばしば少数自由度の力学系で記述できそうに 見える構造が観測されることが知られている。ここではこの少数自由 度的な構造の性質や起源に関する研究結果を中心として、集団的運動 について紹介する。

第7回

Abstract
物質のゆっくりした膨張/収縮に伴う破壊は田んぼのひび割れ、岩石の摂理など日常 至るところで観察できる。このようなゆっくりした破壊(準静的破壊)によってでき る亀裂のパターンは最近になって物理の研究対象として注目され始めている。セミ ナーでは、まずこの分野の実験や理論を紹介した後、発表者らによって行なわれてい る粉体の3次元的な乾燥破壊の実験と最近の研究を報告する。

第6回

第5回

Abstract
ノイズを被ったパーセプトロンの出力から、当該パーセプトロンの 荷重ベクトルを決める問題、パーセプトロンのノイズ有り学習の 問題、において、 学習アルゴリズムとしてギブスアルゴリズムを採用すると、 統計力学的手法によって、学習の到達度の指標である汎化誤差を解析的に 求めることができる。学習曲線は、 例題数の関数としてみた汎化誤差として定義されるが、 学習曲線の振舞いは、荷重ベクトルの種類やノイズのタイプに依存する。 有限の例題数で完全に学習が完了する完全学習や、 学習を最適にする最適温度の存在など学習曲線の振舞いについて報告する。

第4回

第3回

第2回

第1回

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