授業紹介(2004年度)
統計力学1(三回生前期)
統計力学は、自然界に見られる統計現象、特に、多数の基本要素から構成される集団が示す、
統計的な挙動を記述する理論である。ここでは、統計力学の建設期における論争を振り返るとともに、
統計力学の基礎から始まって、平衡統計力学の基本的な枠組みを解説する。
- -- 統計力学は何をする学問か --
物理学から始まり、それを越えて、社会経済現象や生命現象にまで、その前線を拡大しつつある統計物理学
の全体像を概観する
- -- 統計力学の基礎 : 何故、決定論的な力学に対して、確率的な記述が可能なのか --
ミクロな力学の時間反転対称性とマクロな現象の非可逆性の対比、
確率的な記述の基礎としてのカオス現象の概説、エルゴード仮説
- -- 統計現象の記述 --
大数の法則、確率現象の独立性、中心極限定理、ガウス分布、大偏差原理、安定分布
- -- 統計集団の導入 --
ミクロカノニカル分布、カノニカル分布、グランドカノニカル分布。
- -- 熱力学との整合性 -- エントロピー、温度の導入、負の温度、熱力学の関係式の導出。
- -- 平衡系の具体的な問題を考える--
理想気体の状態方程式の導出、比熱の理論、プランクの熱輻射則、エネルギー等分配則とその破れ、常磁性スピン系。
参考書
- 岩波講座現代物理学の基礎5「統計物理学」 久保亮五 他 著 岩波書店
- 岩波基礎物理シリーズ7「統計力学」長岡 洋介 著 岩波書店
- 岩波基礎物理シリーズ8「非平衡系の統計力学」北原 和夫 著 岩波書店
- 大学演習「熱学統計力学」久保 亮五 裳華房
- 共立全書「統計力学」久保 亮五 著 共立書店
統計力学2(三回生後期)
平衡系の統計力学の内、電子気体、超流動など、量子性が本質的な役割を果たす現象を扱う。
また、化学平衡、固液相転移に関するファンデルワールス理論、強磁性の平均場近似とランダウ理論を解説する。
さらに、非平衡系の統計力学の初歩を説明する。
- マックスウェルボルツマン分布、ボーズアインシュタイン分布、フェルミディラック分布を、
グランドカノニカル分布と、ラグランジュの未定乗数法を用いた方法で導出する
- 化学平衡、相平衡、固液相転移とファンデルワールス理論
- -- 2次の相転移 --
平均場近似、ランダウ理論、イジングモデル、自発的な対称性の破れ
- -- ボーズアインシュタイン凝縮 --
超流動、超伝導
- -- 固体電子論 --
金属の自由電子モデル、電子比熱、帯磁率
- -- 非平衡系の現象論 --
ブラウン運動、気体分子運動論、ランジュバン方程式、揺動散逸定理、オンサガーの相反法則
参考書
- 岩波講座現代物理学の基礎5「統計物理学」 久保亮五 他 著 岩波書店
- 岩波基礎物理シリーズ7「統計力学」長岡 洋介 著 岩波書店
- 岩波基礎物理シリーズ8「非平衡系の統計力学」北原 和夫 著 岩波書店
- 大学演習「熱学統計力学」久保 亮五 裳華房
- 共立全書「統計力学」久保 亮五 著 共立書店
形態形成の幾何学(三回生後期)
自然界に見られる様々な形、それらの形が、どのような仕組みで作り出される
のか、ここでは、定性的な見方、物理的直感的な見方に比重を置いて解説する。
キーワードとして、次元解析、対称性の破れ、分岐現象、線形不安定性、
リミットサイクル、フラクタル、など。
具体的に扱うのは、気象現象における大気循環のモデルであるベナール対流と、
生体系におけるリズム発生の原型であるベルーゾフ・ジャボチンスキー反応である。
参考書
- 「非平衡系の物理学」 太田 隆夫 著 裳華房
- 「散逸構造とカオス」 森 肇、蔵本 由紀 著 岩波書店
- 「流体力学」 巽 友正 著 培風館
- 「パラドックスとしての流体」巽 友正 著 培風館
- 「形の数理」高木 隆司 著 朝倉書店
非線型動力学入門(四回生前期)
平衡から遠く離れた系に普遍的に見られる現象として、カオスがある。
カオスは、本来、統計力学の基礎付けを与えるものとして研究されてきたが、
現在ではその適応範囲は、統計力学を含んでより広く、化学反応や生命現象、社会経済現象とも接点を持っている。
ここでは、カオスの基礎的な概念から始まって、 統計力学の基礎付け、
ミクロやマクロのパターン形成に見られるカオスまで初等的に解説する。
- 歴史的経緯---統計力学の基礎付け、三体問題、トポロジー。
- ハミルトン系のカオス---
ホモクリニック交差、馬蹄形力学、記号力学、非線型共鳴。
- 散逸系のカオス---ローレンツ方程式の導出、アトラクター、カオスへ至る道。
- 化学反応におけるパターン形成---BZ反応におけるカオスとパターン。
- フラクタル---ジュリア集合、複素力学系、量子カオスにおけるトンネル。
参考書
- 「散逸構造」ニコリス、プリゴジン 著 岩波書店
- 「古典力学の数学的方法」 アーノルド 著 岩波書店
- 「カオスの中の秩序」 ベルジェ 他 著 産業図書
- 「フラクタル」 高安秀樹 著 朝倉書店
- 「フラクタル科学」 高安秀樹 編 朝倉書店
統計力学基礎特論(大学院前期過程)
ミクロな運動方程式の可逆性とマクロな現象の非可逆性の関連は、統計力学の建設期
以来、議論され続けてきた問題である。ここでは、ハミルトン力学系におけるカオスの
研究を通じて、この問題を考察する。
また、カオスに対応する量子系の研究を概観する中から、
量子系に特有の問題も論じる。具体的には古典論では、エルゴード問題、KAM理論、
メルニコフ積分、高次元カオス系におけるアーノルド拡散、
量子論では、半古典論、相空間表示、ランダム行列理論を講義する。
統計力学の基礎に関する研究が、応用面でも重要となる分野として、
化学反応の動力学、量子コンピューター、経済物理についても触れたい。
参考書
- 「古典力学におけるエルゴード問題」 アーノルド、アベズ 著 吉岡書店
- 「古典力学の数学的方法」 アーノルド 著 岩波書店
- 「力学系」 丹羽 敏雄 著 紀伊国屋書店
- 「Dissipative Structures and Weak Turbulence」 Mannevile 著
Academic Press
- 「エコノフィジックス:市場に潜む物理法則」 高安秀樹、高安美佐子著 日本経済新聞社
- 「量子コンピュータの基礎」 細谷暁夫著 サイエンス社